国民皆保険制度とは
日本には国民皆保険制度という、他国には無い医療制度があります。簡単に言えば、日本国民であればいずれかの健康保険団体に加入しているのが当たり前で、健康保険証がその証です。
日本国憲法第二十五条に(1)「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」 (2)「国は、すべて の生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」 と、規定がありますとおりの制度です。
そもそもこの国民皆保険制度は、一定の保険料を保険者に納める事により、突然病気やケガをしたときに病院へ支払う医療費の自己負担が軽減されるものです。お金がないから医療を受けられないという理由で、国民の健康が損なわれないようにするのが本来の目的です。この制度により世界最高レベルの平均寿命や医療水準を実現しているのは確かです。
また、保険医療費は国が適切に料金を定める事により、どの医療機関であっても同等の金額(病院やクリニック等で多少の差はあります)で適正な医療を受ける事ができます。
価格を自由に設定させないのは、医療における値下げ競争への牽制もあります。また、今問題になっているオーバードーズ(薬の飲みすぎ)を防ぐ意味もあります。
適正な保険診療について
ここでは「適正な医療」という事に注目してみます。例えば、次のようなご要望が患者様からあった場合、どのように考えますか?
「すぐに薬を使いきってしまうから、30本目薬を下さい。」
希望通り、一度に30本も目薬を渡して良いものでしょうか??
→保険診療の観点から考えますと、目薬であっても薬には変わりありません。適量の投与が保険診療として認められます。出す量が多すぎたり、必要以上に使ってしまっている事も多々見受けられます。いくら多く点眼しても、吸収量というのは限られておりほとんどは瞼からこぼれ落ちてしまっているような状況もしばしば耳にします。
そのため、患者様が欲しい分だけ薬がもらえる訳ではないのです。医師が診察して、治療に必要とする量を処方するので受け取れるものです。
もちろん、年末年始やらで病院自体がお休みになるのでいつもの薬を多めに医師が出すという事はあります。ですが、欲しい分だけもらえるという事ではありませんよね。
では、次はいかがでしょうか。
「コンタクトレンズの処方箋、10種類試したいから出して下さい」
ご自身の目に合う製品を探したいのはわかりますが、保険診療の範囲内でしょうか??
→10種類も一度にコンタクトを目に入れる事はできません。通常の範囲であれば、2WEEKと1DAYを用途によって使い分けるとか、ハードレンズと1DAYなら何とか理解できます。せいぜい2つまでが限度でしょう。
コンタクトレンズも高度管理医療機器に位置付けられるもので、使い方を誤ると人体に大きな異常を引き起こします。やはり薬に準ずるものとして取り扱い、必要以上の分量を処方箋にお書きする事はできません。コンビニで違う味のジュースを何本も買うのとは訳が違います。
続いてはこんなパターンです。
医師から4ヶ月毎に検査をしましょうという指示を出しているにも関わらず、患者様ご本人が
「検査は年に1回で良いんです」
→これは検査が疲れるからとか、医療費の負担が増えるからとか様々理由があるように見受けられますが、4ヶ月毎というのは医師が病状により診断していくために必要と判定して指示をしています。これに従わずとして、何をどのように管理して診察や投薬が行えましょうか。眼科に来て視力も測らせてもらえない事も実際問題としてあります。
医療費の負担については、保険医療機関において不必要・過剰と認められる検査が行われている場合、診療報酬請求書に基づき減額されるチェックシステムとなっています。
うっかり紛失してしまっても、保険適応外です
では、次のような時はいかがでしょうか。
「昨日、診察を受けて薬もらったけどなくしてしまった。もう一回もらえますか?」
不可抗力かもしれませんが、うっかりもらったばかりの薬を丸ごと落としてしまった。どこかに忘れてきてしまった。こんなご経験がある方もいらっしゃると思います。しかしながら、必要分以上の診察や調剤は健康保険の適応外です。
もちろん無くしたからといって、調剤してもらえない訳ではありません。本当に無くしているのに必要な薬がないと大変な事になってしまいます。薬はもらえます。ただ、その料金の支払いが全額自己負担になるという事です。健康保険内においての診療(保険料の支給)は完了しているため重複される事はありません。
本当にうっかりやってしまった方はやりきれない判定かと思いますが、持っているのに無くしたと偽って受け取られる事を防ぐ(または転売などを防ぐ)ため、たとえどのような事情でも保険診療外となります。健康保険には紛失保証はついていません。
いかがでしたでしょうか。適正範囲という解釈には個人差が生じ疑義がつくも事も多くありますが、常識の範囲内で考える事が大切に思えます。