コンタクトレンズの度数だけ測るってどういう事?
眼科で働いていると常識、でも一般的にはあまり知られていない事ってよくあります。
例えば、
★緑を見ると目が良くなる。
⇒これは緑という色ではなく、遠くを見る事の方が重要なのです。昔は遠くを見ると緑の木々や山々があったため、”緑”と要約されてたのではないかと言われています。遠くを見ているときの方が(近くの時より)ピント調節に負荷がかかりにくくなると言いたかったのでしょう。
★暗いところで漫画を読むと目が悪くなる。
⇒これは暗さではなく、漫画を見る距離が重要なのです。漫画本に顔を近づけて見ると、近視が進む原因になります。
★メガネにすると、目がどんどん悪くなる。
⇒これもウソ。メガネを掛けたから目が悪くなったのではなく、目が悪くなったからメガネを掛けたので、時系列が逆です。メガネを掛けた事が直接の原因となり近視が進行する事はありません。
このような迷信らしき事をよく耳にします。
そして、最近増えたのが「コンタクトレンズの度数だけ測って欲しい」と言われる事です。
一見、何がおかしいの?と疑問を持たれる方も多いかと思います。
しかし、実際にコンタクトレンズを処方する眼科側からみると、「え?度数だけ、どうやって測るの?」という疑問符が飛び交います。
何故そうなるかというと、コンタクトレンズの度数は最後に導き出された結果値であるからです。
コンタクトレンズの度数はどうやって決まるの?
では実際にコンタクトレンズを作るときに、何が行われるのかを考えてみます。
まずは診察により、一般的な目の異常がないかや矯正視力が問題なく出ているか等を確認します。
その後です。
(1)実際に目の中に入れる製品を決定します。用途や目のデータを元に相談します。
(2)(1)で選んだ実物を装着し、目とのフィット具合をチェックします。(ここでテスト用に選択する度数は仮のものです。)
(3)(2)で問題がなければ、初めてここで度数をどうするかを微調整していきます。テストレンズの度数を元に希望の見え方を確認し、頂点間補正、等価球面など耳慣れない事が勘案されて初めてそのコンタクトレンズでの度数が決定となります。
上述したのは一般的な球面のみのレンズ矯正におけるもので、乱視用や遠近両用等その他特殊レンズに至っては、さらに工程が増えて最終的に度数が導き出されます。
コンタクトレンズには「度数」だけではなく、カーブ・サイズ・厚みなどをはじめとして様々なデータが存在します。それらが実際にヒトの目の中、涙に浮かんだ状態でどのように作用するのかで度数は決定されます。
そのため、いきなり(3)の工程にスキップして結果値だけを出すというのは理論上無理という話なのです。
度数だけで決定すると、目のトラブルが起こる原因に!
以前、こんな事がありました。
当院で発行したコンタクトレンズ処方箋を元にネットで商品を購入した患者様。採用されたのは”度数のみ”。商品名もカーブもサイズも全く違うものをオーダー。しかも、安いからといって親御様が購入してお子様に使用させたそうです。数日後、目を真っ赤にして痛みを訴えたお子様が来院したときには、目が傷だらけになった悲惨な状態でした。
他にも、カーブ・サイズ・度数に至ってもデータ表記が全く同じである2つの商品。商品名を無視して、データだけを同じで値でネットで入力して購入し、角膜炎を起こしたケースもあります。理由はコンタクトレンズの含水率にありました。治癒後は高含水タイプのレンズに変更する事が医師から指示されました。
他にも乱視用や遠近両用の場合では、商品を変えたら全く見え方が変わっておかしくなった。持ち込み乱視の発生などで大変な思いを味わった患者様も多数いるのは事実なのです。
今回は知らない、聞いたこともないような言葉が沢山でてきました。自分は大丈夫と安易に度数だけを考えてコンタクトレンズを使用するのは絶対に止めましょう。
正しく使えば大変便利なものである事には間違いないのですから、「度数だけ」に着目するのは大変危険な事なのです。